【解説】
中脇初枝著『みなそこ』(雑誌連載時題「川にすむ神は水にくすぐられてわらう」)のゲラのコピー、143枚です。ゲラとは印刷所で刷られた試し刷りのことで、原稿と違い、編集者がチェックした状態のものです。
下部に「KWAKM」「14/09/01」などの印字があり、表題以外に書き込みがないので、著者が書き込む前の状態でしょう。
この作品は「小説新潮」に2014(平成26)年5月~8月に連載され、同年10月に単行本として出版されました。過疎化するふるさとを背景に、主人公さわと友人の息子りょうの恋、そして四万十川中流域を思わせる豊かな自然や風習が描かれます。
初出雑誌とゲラを比べると、施餓鬼で鉦を叩くシーン、くもを捕った日の回想、りょうと川に飛び込むシーンなどに加筆が見られます。また、ゲラと単行本を比べると、句点の有無など全体に細かな修正がなされています。
初出と単行本を読み比べると、登場人物の心情などがより明確に読み取れる表現になっていることに気づきます。資料を通して、何度も書き直し、作品の隅々に心を配る作家の苦心がうかがえます。