高知県立文学館

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文学館ニュース
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【本について】
初出:「群像」1947(昭和22)年2月
単行本:大日本雄弁会講談社より1947(昭和22)年11月に刊行

【あらすじ】
歴史上実在した人物である桑名古庵を主人公とし、その生涯を創作を交えて書いた歴史小説。
和歌山に生れ、幼い頃父をなくし、苦難の末ようやく土佐で平和な生活を営むようになった桑名古庵が、密告によって隠れキリシタンとして投獄され、46年間牢屋に閉じ込められた後、獄中で死ぬまでを書く。

【作品について】
田中英光著『桑名古庵』は、その冒頭で武市佐市郎『土佐の史蹟名勝』を引用し、武市論に対して筆者(私)が批判的な立場を取っていることが示された上で、吉田小五郎「桑名古庵と其一族」を参考に「いくらか創作的に書いてみたい」とする導入から始まっています。その言葉通り、吉田論と比較すると、登場人物の性格や娘お蝶の人生、古庵の獄中生活など、かなり創作が加えられています。
武市論では、古庵は「屈強の殉教者」と考えられていました。しかし英光は、獄中でアリを遮っては喜ぶ、惨めで陰惨な古庵の老後を強調しています。さらに、吉田論と『桑名古庵』を読み比べると、古庵が直面した理不尽を強調するように英光が読み解いている印象があります。
政治の犠牲者である古庵という図式を示すことで、古庵の人生を政治史からではなく、民衆の視点から捉えなおしているのです。研究資料を参考にしてなるべく史実に寄り添いつつ、小説家として古庵を書こうとしたと言えるでしょう。英光の父岩崎鏡川が歴史学者であったことを考えると、大変興味深いです。
英光の書いた、自分の人生を徹底的に奪われる古庵の姿は、戦時中も戦後も大きな力に翻弄され続けた英光自身を映しているようです。
英光の本格的な歴史ものはあまり知られていませんが、真摯に題材と向き合い独自色を出そうとする英光の真面目さが感じられ、また読みごたえのある作品が多いので、ぜひご一読ください。

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