【本の情報】
単行本:1948(昭和23)年6月小山書店刊
収録作品:「林檎汁」(昭和14年9月)/「明月記」(昭和17年10月)/「非歌」(昭和15年12月、昭和16年4月)/「命の家」(昭和19年5月)/「晩春日記」(昭和19年5月)/「現世図絵」(昭和21年1月7日)/「聖ヨハネ病院にて」(昭和21年3月)/「嬬(つま)恋い」(昭和21年7月29日) ※年月日は本書の各作品末尾に記されているもので、作品執筆の日付と思われる。
【作品について】
昭和14年に妻が発病し、昭和21年5月に亡くなるまで、8年に渡る闘病生活を支えた上林は、妻の看病をしながらその時々に病妻ものの作品を発表しました。
闘病初期に書かれた「林檎汁」にはじまり、臨終に間に合わなかった無念や妻への思いを切々と綴った「嬬恋い」まで、それぞれの作品で病状の一進一退と、妻を看取る自身の心情、子どもたちの様子がつぶさに描かれています。
『病妻物語』は、「病妻もの」として発表した作品の中から主軸となる8作品を、妻の死後1冊にまとめて自選創作集として出版したものであり、上林はこの『病妻物語』は、「私の文学的境涯において、最も大切なものとなろう」と述べています。
中でも「聖ヨハネ病院にて」は最もよく知られた作品です。妻が亡くなる2か月前の昭和21年3月に執筆されたもので、前年の10月に、妻の付き添いで聖ヨハネ会桜町病院に寝泊まりした十日間の様子が記されています。
敗戦間もない頃に書かれたこの作品には、食べ物をめぐるエゴイスティックな感情と病める妻へのいたわりの気持ちとの間での葛藤がありのままに綴られ、そしてそれを超越した無垢な夫婦愛が描かれています。
この作品は「展望」8号で作家・評論家の臼井吉見に激賞され、病妻ものの頂点として、上林の代表作の一つとなりました。