【本について】
初出:「小説現代」2014(平成26)年11月号~2015(平成27)年2月号
単行本:2015(平成27)年6月に講談社より刊行。
文庫本:2018(平成30)年6月に講談社より刊行。
【あらすじ】
戦時中、高知県から開拓民として親と共に満州にやってきた珠子。新天地での生活の中、朝鮮人の美子(ミジャ)と、横浜から来た茉莉と出会い、友情で結ばれる。やがて戦争が終わり……。戦後の中国と日本で、三人が歩んだ人生を書く。
【解説】
この作品の主人公の一人・珠子は、高知県西部の千畑村の出身です。
千畑村は架空の地名ですが、高知県西部の山間地域は畑が少なく、実際に県の求めに応じ、珠子たちと同じように開拓民として満州に渡った人たちがいました。しかしソ連軍の満州侵入、敗戦後の引揚げで大きな犠牲を出したと言います。著者はこうした高知の歴史をはじめ、日本、朝鮮、中国の当時の出来事を詳しく取材し、作品に反映させています。
珠子も、珠子が親しくなった朝鮮人の美子と裕福な家で育った茉莉も、戦中から戦後にかけて過酷な運命に翻弄されます。幼い子供たちが直面する現実はあまりにも辛く苦しいものです。それでも、苦しい思い出以上に温かな記憶が彼女たちを支え、読み手も少しだけ救われるような気持ちになります。
苛烈な戦争の現実と、国境をたやすく超える友情の記憶を、子どもの素直な視点から捉えたこの作品。戦争が忘れられつつある今ですが、それほど昔ではない時代に私たちの身近な祖先が体験した出来事でもあります。祖先の記憶に触れ、今もなお「世界の果て」にいる子どもたちのことを考えるきっかけとしても、ぜひ読んでいただきたい作品です。