【本について】
初出:「BRUTUS」第12巻第23号 1991(平成3)年12月
単行本:1993(平成5)年3月に新潮社より刊行。
文庫本:1997(平成9)年10月に河出書房新社より刊行。書き下ろし作品「花盗人(はなぬすっと)」を併せて収録。
2015(平成27)年8月に新潮社より刊行。
【あらすじ】
優等生でわがままな姉・清文(きよふみ)が男と出奔した―。後を追うように家を出た弟・有朋は、川をさかのぼりながら姉や姉の友人の君子さんとの記憶に思いを馳せる。
【解説】
第2回坊っちゃん文学賞受賞作。この時、著者は高知県立中村高等学校に在学中で、17歳でした。椎名誠、早坂暁、景山民夫、中沢新一、高橋源一郎の5人の選考者は、優れた青春小説であると位置づけ、若さゆえに研ぎ澄まされた感覚とエネルギー、鮮烈さを絶賛しています。
受賞作「魚のように」は、思春期の繊細であやうい感情をすくい取った作品です。明確に書かれていませんが、著者が少女時代を過ごした高知県中村の傍らを流れる四万十川と思しき川が作品の舞台となっています。不破や江川崎など、実際の場所を想起させるような描写も見られるものの、主人公の意識はほとんど姉の思い出に向けられています。
著者自身、自転車で西土佐のあたりまで行ったことがあるそうです。ゆったりとした四万十川の風景は、思索をめぐらすにはぴったりの場所でもあります。
文庫版に収録されている「花盗人」もまた著者の高校時代に書かれた作品です。少女たちが語る言葉が、高知県西部で使われる幡多弁なのも魅力的です。